この事例の依頼主
女性
相談前の状況
依頼者は配偶者がいた女性でしたが不倫をしていて、事件の相手方は、その不倫相手男性の妻で、いわゆるW不倫の事案でした。不倫が発覚して双方夫婦やその親兄弟が集まって話合いの場がもたれ、依頼者と不倫相手とは事実を認める念書まで書かされてガッチリ証拠を固められた状況に詰められてから、相手方はその夫(不倫相手)と離婚しました。その後、依頼者は、相手方から、不倫相手とともに、地方裁判所に慰謝料請求訴訟を提起され(訴額550万円)、私のもとへ訴訟対応のご相談に来られました。
解決への流れ
W不倫という特殊性からは、依頼者の夫も、相手方の夫に対して不貞慰謝料請求を行うことができる立場にあり、双方の家庭どうしで互いに慰謝料請求を行うことが可能な事案となります。そこで、この特殊性を踏まえて事実関係を詳細に聴取したところ、両家族が集まっての話合いの場で、子どもたちのことも考えて、互いに慰謝料を請求をし合わないことの約束がなされていました。ただ、書面では何も残しておらず、あくまでもその場での口頭での取り決めとのことでしたので、私は、証拠としては非常に弱いものの、争う価値はあると考え、答弁書や準備書面で、請求権放棄の合意があったと抗弁を展開し、徹底的に戦いました。事前にしっかり準備を重ねた証人尋問では、相手方(元妻)に誘導尋問を仕掛けていったところ、相手方が、こちらの策にはまって、狙いどおりに、請求権放棄の話合いがあったことを認める証言を得ることができました。その後の判決でも、裁判所が、請求権放棄の合意があったと認定したことから、相手方の請求はすべて排斥され、完全勝訴判決で終結したという事案です。
不倫の事実を認めていれば当然に慰謝料支払義務がある、というアタマでいたらこの判決結果はなかったと思います。また、証拠は常に書面で残っていないといけない、というアタマでもこの結果はなかったでしょう。本件のように、書面で証拠が残っていなくとも、当事者や関係者からヒアリングをする中で、あれ?各家庭の子どもたちのことを考えたら請求放棄し合うのが普通じゃないか?と常識的な勘を働かせて、間接事実を積み重ねて、最終的には、相手方に対する反対尋問でうまく誘導尋問を仕掛けてこちらに有利な証言をさせれば、十分に勝訴できます。とにかく諦めないことと、証人尋問で、対立する相手方から欲しい証言を得るためにどれだけ緻密に反対尋問の準備ができるかといった訴訟戦略が極めて重要です。依頼者は、550万円もの高額慰謝料請求を受けたものの一切支払わなくて済んだわけで、大変喜んでおられました。私も、ハードルの高い口頭合意での請求権放棄を裁判所が認定してくれた事件として、非常に印象深い事件の一つです。