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アート引っ越し「事故賠償金」天引き制度廃止、どんな法的問題があった?
2017年12月21日 09時25分

「アート引っ越しセンター」で知られる引っ越し会社グループ「アートコーポレーション」が、事故の損害賠償金を従業員に負担させる制度を10月に廃止していたと報じられた。

「引っ越し事故賠償制度」と称する制度で、ベテランや中堅の正社員、常勤アルバイトなどの引っ越し作業のリーダーに対して、1件の事故につき1人3万円を上限に損害賠償金を給与天引きの形で負担させるものだった。

この賠償金をめぐっては、元従業員の男性3人が10月10日に返還を求めて横浜地裁に提訴している。(https://www.bengo4.com/c_5/n_6781/)。報道によると、同社はこの制度を導入する一方で、正社員の場合で毎月1万5000円の手当を支給していたという。

ツイッターでも元従業員が給与明細をアップロードし、物議を醸したこの制度。具体的にはどの点が違法に当たる可能性があるのか。従業員3人の代理人である指宿昭一弁護士に聞いた。

「アート引っ越しセンター」で知られる引っ越し会社グループ「アートコーポレーション」が、事故の損害賠償金を従業員に負担させる制度を10月に廃止していたと報じられた。

「引っ越し事故賠償制度」と称する制度で、ベテランや中堅の正社員、常勤アルバイトなどの引っ越し作業のリーダーに対して、1件の事故につき1人3万円を上限に損害賠償金を給与天引きの形で負担させるものだった。

この賠償金をめぐっては、元従業員の男性3人が10月10日に返還を求めて横浜地裁に提訴している。(https://www.bengo4.com/c_5/n_6781/)。報道によると、同社はこの制度を導入する一方で、正社員の場合で毎月1万5000円の手当を支給していたという。

ツイッターでも元従業員が給与明細をアップロードし、物議を醸したこの制度。具体的にはどの点が違法に当たる可能性があるのか。従業員3人の代理人である指宿昭一弁護士に聞いた。

●労働過程から発生するリスクは使用者が受け入れるもの

どの点が違法に当たる可能性があるのか

「アートでは、引越作業で物を破損すると、労働者の『リーダー』から1件あたり3万円の限度で賠償金を徴収していました。ここには大きな問題があります。

労働過程において、通常求められる注意義務を尽くしている場合には、労働者に損害賠償義務は生じません(光栄機設事件・大阪地判平10.1.23労働判例731号)。また、労働者の軽度の過失によって損害が発生したとしても、それが日常的に発生するような性質のものである場合は、損害の発生は労働過程に内在するものとして、損害賠償義務は発生しないと考えるべきです(大隈鐵工所事件・名古屋地判昭62.7.27労働判例505号)。

つまり、このような損害は、使用者として当然予見できるものであり、使用者は労働者を使って利益を上げているのですから、労働過程から発生するリスクは使用者が止むを得ないものとして受け入れるべきなのです。

また、労働者が損害賠償義務を負う場合であっても、労働者が発生した損害の全てを負担すべきではなく、損害の公平な分担という観点から、労働者の負担は制限されるべきであり、判例上も全額賠償を認めることは稀です(茨城石炭商事件最判昭51.7.8判例時報827号。使用者の労働者への求償を損害額の4分の1に制限)」

賠償金を徴収すること自体、法的に問題があるということだ。

「はい。これ以外にも、法的責任を確認せずに『リーダー』から賠償金を徴収する点、アートが規定している『規定』と異なる運用がなされている点、賃金残額払い原則(労基法24条1項)に違反する『引越事故積立金』が給与から控除されている点など、アートにおける引越事故賠償制度には、制度自体や運用の仕方にも違法があります。

提訴後、2017年10月中に、アートは、引越事故賠償制度を廃止しました。同社は、共同通信の取材に対して、同制度は事故削減が目的であり、『従業員に弁償義務を負わせたものではない。有用だが評価の方法を見直し、別の制度を取り入れた』と説明していますが、この問題について団体交渉を行ってきた労働組合には何も説明をしていません」

●引っ越し事故の背景に長時間労働

10月の提訴会見で元従業員の男性らは、「毎月過酷な残業をして心身ともに疲れ切って、毎日睡眠不足に襲われていた」と長時間労働の問題にも触れていました。

「アートでの引越事故の発生には、アートの長時間労働が背景にあります。アートでは、36協定で決められた残業時間の上限が、1か月195時間を年2回、1か月110時間を年4回、年間で1100時間(平成26年度、27年度)という過労死ラインを遙かに超える異常な長時間残業が労使間で決められていました。そして、実際に、原告3名の年間残業時間は、各自1250時間を超えており、36協定に違反するような過酷な長時間労働が日常化していました。

原告のAさんは、「忙しい時期ではなくても午前7時から仕事を始め、夜は午後9〜10時までかかるのが当たり前。繁忙期には午前2〜3時まで仕事をして、寝る時間がない。子どもと遊ぶことも出来ず、妻からは辞めてくれと言われた。体もきつかった」と語っています。このような過酷な労働実態が日常化していました。

このような過酷な長時間労働を強いておきながら、引越作業で生じた損害を労働者に転嫁することは許されません」

今回の提訴により、状況は良くなっていくのだろうか。

「提訴により、引越事故賠償制度を廃止に追い込んだことは一歩前進ですが、同社がこの制度が違法であったことを認め、過去に労働者から徴収した引越事故賠償金を全額返還するわけではないので、訴訟は続きます。引越業界全体から、引越事故賠償制度をなくすためにも、本件訴訟は重要な意義を有していると思います」

(弁護士ドットコムニュース)

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