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文藝春秋が掲載した神戸児童殺傷事件「家裁審判決定」全文――少年法の趣旨に反する?
2015年04月25日 10時55分

4月上旬に発売された月刊誌「文藝春秋」5月号に、1997年2月に起きた神戸連続児童殺傷事件の家裁審判決定の全文が掲載され、大きな話題になった。通常の裁判の「判決文」にあたるものだ。神戸家裁は同年10月、容疑者の少年Aに対し、医療少年院送致を決定しているが、公表していたのはその要旨だった。

報道によると、同事件を取材していた共同通信の佐々木央編集委員が、裁判官として当時事件を担当した井垣康弘弁護士に全文開示を依頼し、提供を受けた。全文には、少年の詳細な成育歴や精神鑑定の主要な部分など、要旨には載っていなかった情報が掲載されている。

神戸家裁は全文を提供した井垣弁護士に対し、「裁判官が退職後も負う守秘義務に反する行為」とした上で、「非公開とされる少年審判に対する信頼を著しく損なうもの。事件関係者に多大な苦痛を与えかねず、誠に遺憾」と抗議したという。

一方で、井垣弁護士は「事件を理解する上では、決定要旨で省かれた加害男性の生育歴について、正しい情報を共有することが必要。少年法と照らしても、公開は特に問題はないと考えている」と主張しているとのことだ。

今回の全文提供は、元裁判官の行動として許されることなのか。同じ裁判官出身の春田久美子弁護士に聞いた。

4月上旬に発売された月刊誌「文藝春秋」5月号に、1997年2月に起きた神戸連続児童殺傷事件の家裁審判決定の全文が掲載され、大きな話題になった。通常の裁判の「判決文」にあたるものだ。神戸家裁は同年10月、容疑者の少年Aに対し、医療少年院送致を決定しているが、公表していたのはその要旨だった。

報道によると、同事件を取材していた共同通信の佐々木央編集委員が、裁判官として当時事件を担当した井垣康弘弁護士に全文開示を依頼し、提供を受けた。全文には、少年の詳細な成育歴や精神鑑定の主要な部分など、要旨には載っていなかった情報が掲載されている。

神戸家裁は全文を提供した井垣弁護士に対し、「裁判官が退職後も負う守秘義務に反する行為」とした上で、「非公開とされる少年審判に対する信頼を著しく損なうもの。事件関係者に多大な苦痛を与えかねず、誠に遺憾」と抗議したという。

一方で、井垣弁護士は「事件を理解する上では、決定要旨で省かれた加害男性の生育歴について、正しい情報を共有することが必要。少年法と照らしても、公開は特に問題はないと考えている」と主張しているとのことだ。

今回の全文提供は、元裁判官の行動として許されることなのか。同じ裁判官出身の春田久美子弁護士に聞いた。

●少年法の趣旨に反する可能性が濃厚

文藝春秋の記事を読みましたが、共同通信の編集委員が書いていた「子どもと社会を考える礎に」という掲載意図と内容がマッチするかどうかは正直、疑問が残りました。

少年の生育歴自体にそれほど特異な部分が多いわけでもなく、むしろ、少年の異常な言動が列挙されているだけで、そこから「社会(私たち)が何を学ぶべきなのか」について、着眼点の示唆を含む分析の記載はあまりありませんでした。ですから、あえて言うとすれば、どうしても興味本位で読まれる懸念を払拭できないように思えました。

個人的に驚いたのは、当時公開された決定要旨が、事件を担当した裁判官自身ではなく、家裁幹部という別人が作成した、という点でした。要旨は、決定を下す裁判官自身が作成するのが通常だからです。

重大事件から学ぶべきことはもちろんありますし、そのためには「生の事実」を把握しておいたほうがベターなのでしょうが、審判文そのものを今回のような形で公開することは、やはり審判を非公開としている少年法の趣旨に反する可能性が濃厚と思います。

●世に問う方法は他にあったのではないか

確かに裁判官、とりわけ退職後の守秘義務を直接定めた法令はありません。そういう意味で、神戸家裁が、退職後の元判事に対して、守秘義務違反を問うことは的外れな感が否めません。ですが、少年審判の決定文は果たして裁判官個人が好きに扱ってよいものでしょうか。

少なくとも、処分を受け終わり、社会内で復帰を果たそうとしている元少年に対する悪影響はないのか、被害者の遺族の方々にとってさえ今まで知らされなかった内容が自分たちを飛び越え、いきなり世の中に出回ったらどう受け止められるか、そういう様々な配慮は十分だったか、それらを上回るほどの必要性や相当性があったといえるかどうか、疑問が残るのです。文藝春秋に寄稿したのが共同通信の編集委員という点も気になります。世に問う、というのであれば、なぜ自分が所属する共同通信で配信しなかったのでしょうか。

少年に接した判事だからこそ感じた何かを伝える、とか、審判に際して悩んだこと、また、いったい誰に対して、何を教訓として伝えたかったのかを元裁判官自らの言葉で語る、など、世に問う方法は他にあったように思えてなりません。

(弁護士ドットコムニュース)

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