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最高裁「令状なしGPS捜査違法」、高井康行弁護士「犯罪組織の実態解明が困難に」
2017年09月19日 09時57分

捜査対象の車両に使用者の承諾なしに秘かにGPS端末を取り付け、位置情報を把握する捜査方法は令状がなければ行うことができない強制の処分であるとした最高裁大法廷判決(平成29年3月15日)は、これまで任意の処分として捜査を行なってきた捜査機関に対し厳しい判断を突きつけるものとなった。今回、この判決が捜査に与える影響について考えてみたい。(ジャーナリスト・松田隆)

捜査対象の車両に使用者の承諾なしに秘かにGPS端末を取り付け、位置情報を把握する捜査方法は令状がなければ行うことができない強制の処分であるとした最高裁大法廷判決(平成29年3月15日)は、これまで任意の処分として捜査を行なってきた捜査機関に対し厳しい判断を突きつけるものとなった。今回、この判決が捜査に与える影響について考えてみたい。(ジャーナリスト・松田隆)

●大法廷判決の内容とは?

捜査機関が行う捜査には任意の処分と強制の処分がある(刑事訴訟法、以下刑訴法、197条1項)。強制の処分は「法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない」(同項但し書)。

どのような捜査が強制の処分にあたるかは、一般的には「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為」(最決昭和51年3月16日)と考えていい。具体的には宅配便の荷物をX線検査で内容物を確認する捜査を、内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから、検証の性質を有する強制の処分とした判例(最決平成21年9月28日)がある。

この大法廷判決は、GPS捜査は「強制の処分」、かつ「令状がなければ行うことのできない処分」とした。そして、その令状については刑訴法に規定されている令状(検証令状、捜索令状)を発付するのは疑義があって、立法的な措置が望ましいとしたのである。さらに補足意見の中で、立法措置がなされるまでの期間の令状発付につき「ごく限られた極めて重大な犯罪の捜査のため、対象車両の使用者の行動の継続的、網羅的な把握が不可欠であるとの意味で高度の必要性が要求される」と、極めて厳しい要件を科した。

こうした判決に対して、「憲法の精神に忠実な判断で、まさに『憲法の番人』の役割を果たした」(3月16日付け朝日新聞社説)など、メディアの一部は高い評価を与えている。

確かに人権の保護、尊重という観点から見る時、同判決は画期的なものと言えるかもしれない。しかし、この判決で最も実利を得る者の中に、組織的犯罪を行う者が含まれるという事実は動かしがたい。犯罪捜査の効率性、実効性が大きく後退する可能性を考えれば、少なくとも手放しで賞賛するような判決であるかは疑わしい。この最高裁判決が孕む問題点、影響について元検察官の高井康行弁護士に聞いた。

●「GPS捜査はプライバシーの侵害であっても許容範囲」

——今回の大法廷判決、しかも全員一致の判決をどう感じますか

GPS捜査は強制の処分に該当しないと思います。確かにプライバシー侵害の要素はありますが、どこにいたかしか分かりませんし、それが受忍できないようなものとは思えません。プライバシーの侵害と言えるかもしれませんが、許容範囲ではないでしょうか。

ですから私は「車両の位置情報は・・一般的にプライバシーとしての要保護性は高くない」と考えて、少なくとも当該事案について任意の処分であるとした二審(大阪高判平成28年3月2日)の判決を支持します。今回、最高裁が一人も反対意見を述べなかったことが信じられません。

——尾行とGPS捜査の関係についてどのように考えますか

最高裁の理屈を推し進めて、プライバシー侵害に力点を置くなら尾行もダメということになります。ベタ張りの尾行が強制の処分でないとされていることとの整合性が取れるのでしょうか。GPSの場合、持ち物のどこかにくっつける点で尾行と異なりますが、違いはそこだけです。

それだけで片や任意、片や強制で令状が必要、しかも今の令状の類型では該当するのがないから立法的措置が望ましい、それまでは特別な事情がなければ令状発付すらダメという考え方が妥当性を持つのか疑問が残ります。捜査現場に対する認識、配慮が足りないと思います。

●「犯罪組織の実態解明が難しくなった」

——GPS捜査の判決は尾行等、捜査の現場にどのような影響があると考えますか

組織的犯罪の犯罪組織の実態解明が、非常に難しくなったと言えるでしょう。犯罪組織の人的構成を自白によらないで特定するためには、それぞれの行動を確認してAとBがいつ、どこで会ったというようなところを押さえていく必要があります。GPSがあれば、かなりその手間が省けます。

しかし、それも難しくなりました。今回の判決は「GPSを使わない、ひと昔前の行動確認の手法に戻れ」と言われているのと同じです。それを今、行うのは非常に難しいでしょう。それだけ行動確認に人員を取られたら、他の捜査の人員が減ってしまいますから。

——令状について、立法措置が望ましいという部分はいかがでしょう

令状は処分を受ける者に呈示するのが原則ですが(刑訴法222条1項、110条)、GPS捜査の場合、事前に相手に見せたら捜査の実効性が損なわれてしまいます。ですから、見せなくていい類型の令状を作る必要があるでしょう。そういった点を考えれば特別立法をした方がいいかもしれません。そこは法技術的な問題だと思います。

——そうした立法措置が取られるまでの間、補足意見は令状発付に厳しい条件を科しています

非常に厳しい縛りがかけられています。日本の場合、そんなに迅速に立法はなされませんから、その間、GPSを使った捜査はほとんどできない可能性があります。ただ、報道で見聞きした限りですが、個別の事例では認められているようです。捜査側としては当面、「これなら令状が出るだろう」という事例で令状発付を受け、そういう実績を積み重ねていくしかないと思います。

——GPS捜査に厳しい条件をかけることで犯罪捜査が後退することがあれば、最後に被害を受けるのは我々なのかなという気もします

そういうことです。善良な国民が被害を受けます。最高裁の考えは捜査に対する認識、配慮が足りず、もっと言えば、国民の安全安心に対する配慮が足りません。現職の多くの検察官も同様の考えだと思います。

【取材協力弁護士】

高井 康行(たかい・やすゆき)弁護士

1972年4月検事任官。東京地検特捜部時代にはリクルート事件を担当した。1997年6月、東京高検刑事部検事を最後に退官し弁護士登録。ライブドア事件では主任弁護人を務める。青山学院大学大学院法務研究科客員教授(2017年9月末退任予定)。

事務所名:東京靖和綜合法律事務所

【プロフィール】

松田 隆(まつだ·たかし)

1961年、埼玉県生まれ。青山学院大学大学院法務研究科卒業。新聞社に29年余勤務した後、フリーランスに転身。主な作品に「奪われた旭日旗」(月刊Voice 2017年7月号)。

(弁護士ドットコムニュース)

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