海外から日本にいる弟に「万引き」を指示したとして、警視庁がベトナム人の逮捕状を取って捜査を進めていると報じられている。
NHKによると、2024年11月に東京都荒川区のドラッグストアで、健康食品が万引きされた事件があり、ベトナム国籍の被疑者が実行役に指示していた疑いがあるという。
実行役は、この被疑者の弟だといい、すでに逮捕・起訴されている。実行役は警視庁の取り調べに「ベトナムにいる兄からの指示で万引きし、荷物を送っていた」などと供述したという。
海外にいながら日本にいる人物に犯行を指示する行為は法的にどのような問題があるのか。刑事事件にくわしい澤井康生弁護士に聞いた。
●犯罪が日本国内で実行されていれば刑法が適用
──海外から日本にいる人に犯罪を指示する行為はどんな法的問題がある?
まず、国外から犯罪を指示した人、つまり国外の共犯者にも、日本の刑法が適用されるのか、という問題があります。
日本の刑法は、場所的効力について「属地主義」を原則としています。つまり、犯罪が日本国内で実行されている限り、何人に対しても刑法の適用があります(刑法1条1項)。
つぎに正犯行為が日本国内で実行された場合、国外でその教唆や幇助をおこなった共犯者にも日本刑法が適用されると解されています(最高裁平成6年12月9日決定)。
今回の事件は、正犯が日本国内で窃盗を実行した事件であることから、その正犯者(弟)に対して国外から窃盗を指示した共犯者(兄)に対しても、日本刑法が適用されます。
ちなみに今回の事件では、犯罪をそそのかした教唆犯というよりも、意思を通じた共犯関係にある「共謀共同正犯」として令状が出ていると思いますが、扱いは同じです。
●海外にいる被疑者の捜査は「国際指名手配」をかける
──日本にいる人が海外から指示されて事件を起こした場合、捜査機関は一般的にどのような捜査をする?
捜査の進め方ですが、逮捕状を取得しても、日本の警察にはベトナム国内での捜査権がありませんので、日本の警察がベトナムに乗り込んで逮捕することはできません。
そのため、警視庁から警察庁経由で国際刑事警察機構(ICPO)により国際指名手配(いわゆる赤手配書)をかけてもらって、この国際指名手配に基づきベトナム政府(ベトナム最高人民検察院)に身柄を確保してもらう流れになります。
なお、日本とベトナムとの間には、2022年に日本ベトナム刑事共助条約が締結されていることから、この条約に基づいて警察庁刑事局組織犯罪対策部所属の国際捜査管理官がベトナム政府に対して、捜索差押、犯罪収益や道具の没収・保全を請求することも考えられます。