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「どれだけ返しても元金が減らない」奨学金訴訟に取り組む弁護士が機構の対応批判
2016年05月30日 20時45分

日本学生支援機構が、貸与型奨学金を受給していた50代男性(東京都)に対し、延滞金など約240万円の支払いを求めた訴訟の控訴審判決が5月27日、東京地裁であった。男性に全額の支払いを命じた1審の簡裁判決が取り消され、男性の逆転勝訴となった。

男性の代理人の岩重佳治弁護士は5月30日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見し、「延滞金は今、深刻な問題になっている。どれだけ返しても元金が減らないという方が多くて、なんでこんなに延滞金にこだわるのかと思うくらい、機構はこだわる」と批判した。

この裁判で、男性は、機構側の担当者に「延滞金の免除」を約束されていたと主張。争点になっていたが、東京地裁は「延滞金の免除を受けられると期待したことはやむを得ない事情があったというべきである」と判断した。

岩重弁護士によると、延滞金をめぐる裁判は少なくともほかに3つはあるという。

「日本育英会時代は、担当者に裁量が与えられていて、柔軟に減免の『約束』をしていたのだと思う。実際に当時の関係者から、そういう運用があったという話を聞いたことがある。2004年に奨学金が育英会から機構へ引き継がれてから、奨学金が『金融事業』になってしまった。奨学金の体質が変わってしまったというのが、この裁判の本質だと思う」

●完済したと思ったら、元金は1円も減っていなかった

今回の判決のポイントはどこにあったのか。

判決などによると、男性は機構の前身である「日本育英会」から高校分(1980〜83年)として54万円、大学分(1983〜87年)として121万5000円の貸与を受けた。男性は、1988年から返済を始めたが、母親の病気で治療費が必要になったことなどもあり、返済が滞るようになったという。

2004年に高校分の奨学金を完済したが、その頃には元金とほぼ同額の54万4000円の延滞金があった。しかし、男性が事前に育英会に事情を説明したところ、担当者は元金の支払いを条件に延滞金の全額減免を約束。育英会を引き継いで発足した日本学生支援機構も、全額減免を認めた。

しかし、大学分はそうはいかなかった。男性は高校同様、元金さえ支払えば延滞金が全額減免されるものと信じ、少しずつ返済を進め、2013年に元金の121万5000円を支払い終えたと思っていた。しかし実際は、支払ったお金は、全て延滞金に充てられたため、元金121万5000円の債務はそのまま残り、延滞金もあと114万6000円支払う必要があった。

裁判で男性は、育英会当時の担当者から減免を約束されたと主張、機構からの書類なども提出し約束の有効性を訴えた。

一方、機構側は約束とは、減免の「審査」の約束であると主張。仮に男性が言う通りだとしても、担当者には免除を決定する権限がないことや、制度上は審査が必要であることから、お互いの意思に齟齬があり、延滞金を免除する合意は成立していないなどとしていた。

一審の東京簡易裁判所は、機構側の主張を支持。控訴審も、合意そのものは成立していないとした。しかし、男性を誤解させて元金相当額を払わせたにもかかわらず、延滞金を請求するのは「信義に反する」と評価。機構側の請求を棄却した。

岩重弁護士は「機構は結果を重く受け止めて、上告せずに判決に従っていただきたい」と話していた。

一方、日本学生支援機構は、上訴するかどうかも含め「係争中の案件なので、コメントは差し控えたい」と回答している。

(弁護士ドットコムニュース)

日本学生支援機構が、貸与型奨学金を受給していた50代男性(東京都)に対し、延滞金など約240万円の支払いを求めた訴訟の控訴審判決が5月27日、東京地裁であった。男性に全額の支払いを命じた1審の簡裁判決が取り消され、男性の逆転勝訴となった。

男性の代理人の岩重佳治弁護士は5月30日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見し、「延滞金は今、深刻な問題になっている。どれだけ返しても元金が減らないという方が多くて、なんでこんなに延滞金にこだわるのかと思うくらい、機構はこだわる」と批判した。

この裁判で、男性は、機構側の担当者に「延滞金の免除」を約束されていたと主張。争点になっていたが、東京地裁は「延滞金の免除を受けられると期待したことはやむを得ない事情があったというべきである」と判断した。

岩重弁護士によると、延滞金をめぐる裁判は少なくともほかに3つはあるという。

「日本育英会時代は、担当者に裁量が与えられていて、柔軟に減免の『約束』をしていたのだと思う。実際に当時の関係者から、そういう運用があったという話を聞いたことがある。2004年に奨学金が育英会から機構へ引き継がれてから、奨学金が『金融事業』になってしまった。奨学金の体質が変わってしまったというのが、この裁判の本質だと思う」

●完済したと思ったら、元金は1円も減っていなかった

今回の判決のポイントはどこにあったのか。

判決などによると、男性は機構の前身である「日本育英会」から高校分(1980〜83年)として54万円、大学分(1983〜87年)として121万5000円の貸与を受けた。男性は、1988年から返済を始めたが、母親の病気で治療費が必要になったことなどもあり、返済が滞るようになったという。

2004年に高校分の奨学金を完済したが、その頃には元金とほぼ同額の54万4000円の延滞金があった。しかし、男性が事前に育英会に事情を説明したところ、担当者は元金の支払いを条件に延滞金の全額減免を約束。育英会を引き継いで発足した日本学生支援機構も、全額減免を認めた。

しかし、大学分はそうはいかなかった。男性は高校同様、元金さえ支払えば延滞金が全額減免されるものと信じ、少しずつ返済を進め、2013年に元金の121万5000円を支払い終えたと思っていた。しかし実際は、支払ったお金は、全て延滞金に充てられたため、元金121万5000円の債務はそのまま残り、延滞金もあと114万6000円支払う必要があった。

裁判で男性は、育英会当時の担当者から減免を約束されたと主張、機構からの書類なども提出し約束の有効性を訴えた。

一方、機構側は約束とは、減免の「審査」の約束であると主張。仮に男性が言う通りだとしても、担当者には免除を決定する権限がないことや、制度上は審査が必要であることから、お互いの意思に齟齬があり、延滞金を免除する合意は成立していないなどとしていた。

一審の東京簡易裁判所は、機構側の主張を支持。控訴審も、合意そのものは成立していないとした。しかし、男性を誤解させて元金相当額を払わせたにもかかわらず、延滞金を請求するのは「信義に反する」と評価。機構側の請求を棄却した。

岩重弁護士は「機構は結果を重く受け止めて、上告せずに判決に従っていただきたい」と話していた。

一方、日本学生支援機構は、上訴するかどうかも含め「係争中の案件なので、コメントは差し控えたい」と回答している。

(弁護士ドットコムニュース)

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