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週刊ポストが「元少年A」の実名と顔写真を掲載――少年法違反か? 表現の自由か?
2015年09月19日 12時27分

1997年に神戸市で起きた連続児童殺傷事件をめぐり、9月14日発売の『週刊ポスト』(小学館)が、加害者の男性「元少年A」の犯行当時の顔写真と実名を公開する記事を掲載して、物議をかもしている。

男性は今年6月、事件を起こした経緯や、その後の人生をつづった手記『絶歌』(太田出版)を出版して大きな話題を呼んだ。9月に入ってからは、「公式ホームページ」を開設したり、それを知らせる手紙を複数のメディアに送るなどして、積極的に情報発信している。

『週刊ポスト』の記事では、公式ホームページの文章などから、現在の男性の精神状態について、犯罪心理学者が分析をおこなっている。そのうえで、「もはや彼は『過去の人物』ではない」「彼の氏名を含めたあらゆる言動は公衆の正当な関心の対象であり、現在進行形の事件の論評材料となる」と、顔写真と実名公開の理由を記している。

一方で、少年法では、少年の犯行について、氏名や年齢等、本人と推知することができるような記事や写真の報道を禁止する規定がある。男性はすでに成人になっており、週刊ポストの記事によると「社会復帰後、氏名ともに変えて生活している」ということだが、はたして、今回の公開に法的な問題はないのだろうか。刑事事件にくわしい萩原猛弁護士に聞いた。

1997年に神戸市で起きた連続児童殺傷事件をめぐり、9月14日発売の『週刊ポスト』(小学館)が、加害者の男性「元少年A」の犯行当時の顔写真と実名を公開する記事を掲載して、物議をかもしている。

男性は今年6月、事件を起こした経緯や、その後の人生をつづった手記『絶歌』(太田出版)を出版して大きな話題を呼んだ。9月に入ってからは、「公式ホームページ」を開設したり、それを知らせる手紙を複数のメディアに送るなどして、積極的に情報発信している。

『週刊ポスト』の記事では、公式ホームページの文章などから、現在の男性の精神状態について、犯罪心理学者が分析をおこなっている。そのうえで、「もはや彼は『過去の人物』ではない」「彼の氏名を含めたあらゆる言動は公衆の正当な関心の対象であり、現在進行形の事件の論評材料となる」と、顔写真と実名公開の理由を記している。

一方で、少年法では、少年の犯行について、氏名や年齢等、本人と推知することができるような記事や写真の報道を禁止する規定がある。男性はすでに成人になっており、週刊ポストの記事によると「社会復帰後、氏名ともに変えて生活している」ということだが、はたして、今回の公開に法的な問題はないのだろうか。刑事事件にくわしい萩原猛弁護士に聞いた。

●少年法の規制は、成人した後も及ぶ

「今回の実名と顔写真の公開については、少年法61条に抵触するのではないか、という点が問題となります。少年法61条には、次のようにあります。

『家庭裁判所の審判に付された少年又は少年の時に犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない』

この規定や、審判の非公開の規定(少年法22条2項)は、少年の名誉・プライバシーを保護することによって、少年に否定的な社会的烙印が押されて少年が社会から排斥されることを防ぎ、少年の更生を図ろうとするものです。

本条の規制は、少年が成人に達した後にも及ぶとされています」

●少年法61条が制限されるケースもありうる

今回の実名報道は問題があったということだろうか。

「そうとは言い切れないでしょう。

少年事件における少年の氏名等の報道も、表現の自由(憲法21条)によって保障され、国民の知る権利の対象です。そして、犯罪およびそれに関連する事項は、もともと公共性の高い事項です。

事件に対処した捜査機関・司法機関・矯正機関の対応は適切だったのか等の検討も含めて、十分な情報開示のもとで、公共的な討論に委ねられるべき分野でしょう。

こう考えると、少年法61条の規定も一律絶対禁止を規定したものではなく、少年の犯した罪の重大性や社会に与えた影響、国民の関心の程度を踏まえて、その適用が制限されることもあるというべきでしょう」

今回のケースはどう考えればいいだろうか。

「神戸児童殺傷事件は、被害者の児童の頭部を切断し、それを中学校の校門の外に置き、犯行声明文を送ったという殺人事件です。

事件は、社会に与えた影響も大きく、国民の強い関心の対象となりました。加えて、元少年Aは、すでに成人に達し、自ら本件についての本も出版しています。

そういった事情を踏まえれば、表現の自由の保障が優越し、少年法61条の要請は背後に退くと考えるべきではないでしょうか」

萩原弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコムニュース)

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