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人身事故の写真をネット上に掲載することは法的に問題ないのか
2012年12月14日 15時44分

12月5日にJR京浜東北線の上中里駅で人身事故が発生したが、この事故直後の写真だとして多量の流血とともに倒れている人の写真が、インターネットの掲示板などに掲載された騒ぎがあった。

出回った写真が本当にこの事故で電車と衝突した人の写真なのかは定かではなく、にわかには信じがたい話であるが、報道では事故にあった人は「制服姿の少女」とされており、その写真に写っている人も制服姿の少女を思わせるため、本物の写真だと受け止めた人が少なくなかったようだ。

もしこの写真が本物であった場合、報道ではこの事故で電車と衝突した人は搬送先の病院で1時間後に死亡したということなので、事故によって瀕死の状態となった人の写真が、おそらく本人に無断で撮影され、インターネット上に掲載されたことになる。

また、今回の写真がこの事故とは何ら関係のないものであったとしても、インターネット上では事故の事実とともに写真が出回っていたため、見た人が本当にこの事故の写真だと誤認してもおかしくないものであった。

今回の騒ぎでは死亡事故についての写真ということもあり、そのような写真をインターネット上に掲載することについて倫理的な是非を問う声が多く上がっているが、はたして法的には問題がないのだろうか。

今回の写真が本当にこの事故の写真であった場合、あるいは何ら関係のない写真であった場合、それぞれのケースについて、相沢祐太弁護士に聞いた。

●写真が本物であった場合、損害賠償責任が生じる可能性がある

「本当にこの事故の写真であった場合、撮影者には、民事上の問題として、いわゆる肖像権やプライバシー権といった人格的利益を侵害したことによる損害賠償責任が生じると考えられます。」

「この写真からは、事故に遭われた方の顔つき(容ぼう)は判明しませんが、流血して倒れた状態の体つき(姿態)は、単なる写り込みではなく、まさにこの写真の被写体として中央部分に撮影されておりますので、肖像権の問題になり得ます。」

●撮影すること自体も法的責任を問われ得る

「この状況下では、おそらく撮影の承諾はないはずですが、著名人でもない少女について、多量の出血があり瀕死と思われる気の毒な姿を、あえて狙って撮影する必要性も皆無でしょう。特に公益目的もないようですので、この撮影行為自体も、ネット上に掲載する行為も、裁判例の基準に照らせば、いわゆる肖像権侵害であり違法性も認められると思います。」

●面識がある人なら被写体が誰であるか特定が可能?

「また、この写真がネットに掲載された際に、個人を直ちに特定できる氏名等の情報が一緒に掲載されたわけではないようですが、その場合でも、もともと面識のある友人たちには、被写体が誰であるか特定が可能です。事故により瀕死の重傷を負っている姿については、友人や他人に、みだりに知られたくない私的事項と考えられますので、ネットに掲載した行為だけでも、プライバシー権の侵害となる可能性もあります。」

●事故と何ら関係のない写真であっても、プライバシー権の侵害になる可能性がある

「他方、事故と何ら関係のない虚構の写真であった場合でも、その事故の写真であるとの表示を伴って掲載されていたのであれば、面識のある友人たちも、実際に事故に遭われた方の姿を撮影したものであると誤解してもおかしくない程度に信憑性があります。とすると、異論もありそうですが、プライバシー権の侵害と評価される余地もあるでしょう。」

「なお、刑事上の問題としては、着衣の上からでも無断で撮影した行為が迷惑防止条例違反として処罰された事例がありますが、本件では、他人に著しく羞恥心又は不安感を生じさせるような『卑わいな言動』とは言い難く、処罰の対象にはならないでしょう。」

●一度広まってしまうと、ネット上では収束が難しい

インターネット上では一度情報が広まってしまうと、情報源となったページなどを削除しても「ウェブ魚拓」と呼ばれる保存機能などを通じて拡散され続け、収束するのが難しいという問題点がある。

法的な責任を負うリスクもあるが、なによりもこのような行為は、事故で死亡した人の遺族や友人の心を深く傷つける恐れがあるので、今後同じような事態が発生しないことを願いたい。

(弁護士ドットコムニュース)

12月5日にJR京浜東北線の上中里駅で人身事故が発生したが、この事故直後の写真だとして多量の流血とともに倒れている人の写真が、インターネットの掲示板などに掲載された騒ぎがあった。

出回った写真が本当にこの事故で電車と衝突した人の写真なのかは定かではなく、にわかには信じがたい話であるが、報道では事故にあった人は「制服姿の少女」とされており、その写真に写っている人も制服姿の少女を思わせるため、本物の写真だと受け止めた人が少なくなかったようだ。

もしこの写真が本物であった場合、報道ではこの事故で電車と衝突した人は搬送先の病院で1時間後に死亡したということなので、事故によって瀕死の状態となった人の写真が、おそらく本人に無断で撮影され、インターネット上に掲載されたことになる。

また、今回の写真がこの事故とは何ら関係のないものであったとしても、インターネット上では事故の事実とともに写真が出回っていたため、見た人が本当にこの事故の写真だと誤認してもおかしくないものであった。

今回の騒ぎでは死亡事故についての写真ということもあり、そのような写真をインターネット上に掲載することについて倫理的な是非を問う声が多く上がっているが、はたして法的には問題がないのだろうか。

今回の写真が本当にこの事故の写真であった場合、あるいは何ら関係のない写真であった場合、それぞれのケースについて、相沢祐太弁護士に聞いた。

●写真が本物であった場合、損害賠償責任が生じる可能性がある

「本当にこの事故の写真であった場合、撮影者には、民事上の問題として、いわゆる肖像権やプライバシー権といった人格的利益を侵害したことによる損害賠償責任が生じると考えられます。」

「この写真からは、事故に遭われた方の顔つき(容ぼう)は判明しませんが、流血して倒れた状態の体つき(姿態)は、単なる写り込みではなく、まさにこの写真の被写体として中央部分に撮影されておりますので、肖像権の問題になり得ます。」

●撮影すること自体も法的責任を問われ得る

「この状況下では、おそらく撮影の承諾はないはずですが、著名人でもない少女について、多量の出血があり瀕死と思われる気の毒な姿を、あえて狙って撮影する必要性も皆無でしょう。特に公益目的もないようですので、この撮影行為自体も、ネット上に掲載する行為も、裁判例の基準に照らせば、いわゆる肖像権侵害であり違法性も認められると思います。」

●面識がある人なら被写体が誰であるか特定が可能?

「また、この写真がネットに掲載された際に、個人を直ちに特定できる氏名等の情報が一緒に掲載されたわけではないようですが、その場合でも、もともと面識のある友人たちには、被写体が誰であるか特定が可能です。事故により瀕死の重傷を負っている姿については、友人や他人に、みだりに知られたくない私的事項と考えられますので、ネットに掲載した行為だけでも、プライバシー権の侵害となる可能性もあります。」

●事故と何ら関係のない写真であっても、プライバシー権の侵害になる可能性がある

「他方、事故と何ら関係のない虚構の写真であった場合でも、その事故の写真であるとの表示を伴って掲載されていたのであれば、面識のある友人たちも、実際に事故に遭われた方の姿を撮影したものであると誤解してもおかしくない程度に信憑性があります。とすると、異論もありそうですが、プライバシー権の侵害と評価される余地もあるでしょう。」

「なお、刑事上の問題としては、着衣の上からでも無断で撮影した行為が迷惑防止条例違反として処罰された事例がありますが、本件では、他人に著しく羞恥心又は不安感を生じさせるような『卑わいな言動』とは言い難く、処罰の対象にはならないでしょう。」

●一度広まってしまうと、ネット上では収束が難しい

インターネット上では一度情報が広まってしまうと、情報源となったページなどを削除しても「ウェブ魚拓」と呼ばれる保存機能などを通じて拡散され続け、収束するのが難しいという問題点がある。

法的な責任を負うリスクもあるが、なによりもこのような行為は、事故で死亡した人の遺族や友人の心を深く傷つける恐れがあるので、今後同じような事態が発生しないことを願いたい。

(弁護士ドットコムニュース)

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