今や、共働き世帯は専業主婦世帯の2.5倍近くにのぼります。2025年2月に公表された総務省統計局の労働力調査(2024年平均結果)に基づき、労働政策研究・研修機構は「共働き世帯」は1300万世帯、「専業主婦世帯」は508万世帯であり、年々、共働き世帯が増えていると分析しています。
専業主婦(主夫)のいる世帯は少数派となったにもかかわらず、その立場に対する画一的なイメージや誤解は、いまだ社会に根強く残っています。
弁護士ドットコムニュースが「専業主婦・主夫」になった理由を募集したところ、病気や介護、パートナーの要望、あるいは会社の倒産など、意図せずその立場にならざるを得なかった人たちから、社会の無理解に対して切実な声が数多く寄せられました。
●病気、介護、失業…望まずしてキャリアを絶たれた
やむを得ない事情でキャリアを諦め、「専業主婦・主夫」になった人は少なくありません。
東京都の女性の場合、営業職だった夫(66)が持病の悪化で退職。夫は「専業主夫」となり、管理職として働く女性を支えてくれているそうです。「立場が変わり、主人が家事をやることが自然になってしまいました。今では、帰ればご飯の用意がしてあるという状況です」。
自分や家族の病気、介護がきっかけとなったケースも多く見られました。
「障害児がいるとフルに働けない。幼稚園だと追い出されることもあります」(30代女性・神奈川県)
「両親の遠距離介護のため、職場を欠勤することが多くなり辞職しました。水鳥のように沈まないように水中で必死に足を動かしているように、見えないところで働いているような状況です。家族に理解者がいないという猛烈な孤独感もあります」(60代女性・茨城県)
中には、病気に会社の倒産が重なった人も。
東京都の50代女性は、第二子の出産後に職場復帰したものの、子どもが小児喘息と診断され、看病と仕事で疲れ切った矢先、会社が倒産してしまいます。夫から「しばらく育児と家事に専念したら」と勧められ、専業主婦になったそうです。
●パートでも、カード会社からは「専業主婦」扱い
「専業」という言葉が、その過酷な実態を覆い隠してしまうこともあります。
「専業主婦だから時間あるでしょ? って言われると腹立たしく思います」
そう話すのは、パート勤務の女性です。タイミーなどの隙間バイトで働いていても、カード会社からは「専業主婦」と扱われてしまうといいます。しかし女性の日常は、決して「専業」という言葉が示すようなものではありません。
「義父の車椅子での送り迎え、夫のリモート中の食事、腰痛持ちの夫のマッサージ、買い物の代理、すべて私の仕事です。通常の家事に加え、これだけやることがあると流石に負担です」
●「これは少子化“促進”対策だ」社会への叫び
個人の苦しみは、時として社会構造への強い憤りへと向かいます。
激務の夫を支えながらワンオペ育児を続け、不眠症を発症したという50代の女性は、こう訴えます。
「夫は仕事、私は仕事以外すべて。そうするしか、我が家がうまく回らなかった」
「紆余曲折あって、結果的に専業主婦になったのに、他人から『ラクしてる』なんて言われたくない。それぞれの家庭の事情がある」
そして、その声は社会全体への問いかけへと続きます。
「少子化を止めたいなら、共働きでも専業主婦でもドンドン産めるように手取りを増やし、子どもを預けて働けるように、すべての女性が安心して産み育てることができる環境を整備すべき。
女が結婚しないから、女が産まないから、と責任を押し付けられるのは納得がいかない。国がやってるのは、少子化促進対策にしか見えない。ドンドン国民からお金を奪って貧しくさせている」
●記者考察:「専業主婦・主夫」という言葉ではひとくくりにできない
寄せられた声からは、「専業主婦・主夫」という言葉だけでは到底ひとくくりにできない、多様で複雑な人生の背景が浮かび上がります。
「専業」か「共働き」かという単純な二項対立ではなく、誰もがそれぞれの場所で抱える日々の苦労や努力に目を向け、互いに想像力を働かせることが、より生きやすい社会につながるのかもしれません。