2014年、政務活動費の不正利用を指摘されて、兵庫県議だった男性が記者会見で号泣──。この「号泣会見」は当時ネットで拡散し、男性のコラ画像や動画が大量に作られて、Tシャツまで販売される騒動に発展した。
なかでも、男性が記者の質問を聞くため耳に手をあてる仕草は、真似をする人が続出した。スタジオジブリの人気作『耳をすませば』のタイトルと合成されてSNSを中心に大量投稿された。
一方で「いじられている」「いじめのようだ」という声もあったものの、ネットミーム化は止まらず、10年以上経った現在も、耳に手をあてる男性の画像入りTシャツが、通販サイトやフリマアプリで堂々と販売されている。
こうしたTシャツの販売に法的問題はないのだろうか。知的財産法にくわしい坂野史子弁護士に聞いた。
●著作権や肖像権などの侵害リスクあり
「写真の著作権は、その著作者(撮影者など)に帰属しますので、無断使用は著作権侵害になると考えます」
Tシャツに使われている「号泣議員」の画像は、報道機関の動画や写真を転用したものとみられ、坂野弁護士によると、著作権侵害の可能性が高い。さらに本人の写真や似顔絵を無断で利用すれば、肖像権やパブリシティ権の問題が生じる場合もあるという。
「肖像権は、自己の容貌や姿態をみだりに撮影、公表されない権利です。したがって、無断で画像をプリントしたTシャツを販売すれば、肖像権の侵害にはなると思います。
パブリシティ権は、人の氏名や肖像が他人の関心を引くなどして、商品の販売を促進する力(顧客吸引力)を持つ場合に、その個人が顧客吸引力を排他的に利用する権利をいいます。
本人に顧客吸引力がある場合はパブリシティ権の問題も生じえます」(坂野弁護士)
●ジブリ作品のタイトルと組み合わせているが・・・
さらに気になるのが、Tシャツにスタジオジブリ作品のDVDのパッケージを模したデザインや、『耳をすませば』の題字と組み合わせている点だ。これらの「パロディ的表現」は著作権や商標権の侵害にならないのだろうか。
「著作権が保護するのは、『思想または感情を創作的に表現したもの』であって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものをいいます。商標権は、指定商品やサービスの識別標識として使用されるもので、特許庁に登録されていることが必要です。タイトルを表示しただけでは、著作権や商標権の侵害とはいえません」
問題のTシャツは、海外の通販サイトで販売されている。日本で法的措置をとれるのだろうか。
「知的財産権は属地主義なので、日本の法制度での対応は原則として難しいと思います」
ネットミームは長寿だ。10年経っても消えない裏で、誰かの権利が踏みにじられていないか。私たち一人ひとりのリテラシーが問われている。