ペットは「家族」なのか、それとも「財産」なのか──。
母親の死後に残されたトイプードルをめぐって、相続人の間で費用負担の押し付け合いが起きています。
弁護士ドットコムに寄せられた相談によると、相談者の母親は生前からトイプードルを飼っていましたが、闘病中から相談者が預かって世話をしてきました。
母親の死後も引き取りましたが、予防接種などにかかる費用は年間30万円以上。相談者がきょうだいに費用の分担を求めたところ、「犬は相続財産ではないから負担できない」と断られたといいます。
飼い主の死後に残されたペットの扱いをめぐるトラブルは少なくありません。犬や猫といった動物は、相続上どのように位置づけられ、費用負担はどう整理されるのでしょうか。村田篤紀弁護士に聞きました。
●ペットの養育費用は誰が負担する?
──相続の際、ペットは法律上どのように扱われるのでしょうか。
ペットは民法上、「物」(民法85条)であり、動産(同86条2項)にあたります。そして、相続の対象は「被相続人の財産」です(同896条)。
したがって、法律上、ペットも相続財産に含まれ、遺言がなければ遺産分割協議の対象となります。
一方で、飼い主には、動物愛護法で次のような義務が課されています。
・所有者や占有者は、動物の健康と安全を保持するように努めなければならない(7条1項) ・所有者は、その動物の命が尽きるまで適切に飼養することに努めなければならない(同4項)
また、ペットの養育費は「相続財産に関する費用」(民法885条)にあたり、相続開始から遺産分割成立までの間は遺産から支出する、つまり相続人全員で負担することになります。
●遺産分割時のペットの評価は?
──遺産分割の際、ペットはどのように評価されるのでしょうか。
遺産分割では、すべての財産を金銭評価する必要があります。ペットを金銭評価することに抵抗を感じる方もいると思いますが、手続き上、避けることはできません。
評価の基準は「時価」、すなわち客観的な交換価値です。ペットが市場で売却されることは通常考えにくいため、実務上は「0円」と評価されるケースが多いのではないでしょうか。
●ペットの養育費用を相続できるか?
──相談者のように、母親の飼い犬を引き取った相続人が、他の相続人に養育費の分担を求めることは可能でしょうか。
被相続人には終生飼養義務がありますから、ペットが生きている間にかかる費用は相続財産から支出すべき、という考え方も成り立ちます。
そのため、遺産分割をおこなう際には、あらかじめペットの生涯に必要な費用を見積もり、それを考慮して分割方法を決めるのが望ましいでしょう。これは被相続人の意向や、動物の命を尊重する観点から適切であると思います。
ただし、相続人間で話し合いがまとまらなければ問題は複雑になります。養育費の負担を将来債務ととらえれば、遺産分割協議では解決できません(遺産分割の対象にならない)ので、民事訴訟による解決が必要になります。
●トラブル防止のためにできる生前対策
──紛争を避けるために、飼い主が生前にできる準備や対策はありますか。
最も有効なのは、生前に信頼できる人へ養育を依頼し、費用を遺言や遺贈の形で確保しておくことです。
遺言書の作成やペット信託の活用も考えられます。具体的な内容については専門家に相談すると安心です。
ペットを家族と考えるのであれば、飼い主の死後もペットが幸せに暮らせるように、そして相続人に過度な負担を残さないためにも、生前からの備えが欠かせません。