「毎年帰省のたびに親のサブスクを10件ぐらい解約している」ーー。ウェブの有料サービスの登録・解約のわかりづらさに苦言を呈する投稿がXで注目を集めました。
投稿者は、親が自身で気づかないうちに登録してしまっている、ECプレミアム会員、動画サブスクや有料チャンネルなどを、帰省のたびに調べて解約しているそうです。
サブスクに限らず、離れて暮らす認知機能の衰えた親が、意図せず契約などを結んでしまうことを心配する子は少なくないと思われます。法的に見て、本人が認識していない契約を家族が整理し、解約することは可能なのでしょうか。簡単に解説します。
●契約時に「意思能力」を欠いていれば契約の無効を主張できるが‥
認知症の影響などで、本人が「契約した覚えがない」ほど物事の判断がつかなくなっていたのであれば、契約の無効を主張できる可能性があります。
契約が有効に成立するためには、契約締結の時点で本人がその契約の内容を理解し、判断する能力である意思能力を有している必要があります。
高齢化による認知機能の低下などにより、親が契約時にこの意思能力を完全に欠いていたと認められる場合、その契約は無効となり、解除できます。
しかし、契約時点で意思能力が欠けていたことを立証するのはかなり困難です。
単に「覚えていない」と主張しても足りません。契約時点では意思能力に問題がなかったのに、その後契約したことを忘れただけかもしれないからです。 契約当時の親の様子を記録したメモや、医師の診断書といった証拠が必要となります。
親が高齢で、常に判断能力に欠ける状態である場合には、家庭裁判所に申し立てて「成年後見人」を選任するのが法的に最も確実な手段です。後見人は親の法定代理人として、有効に契約の解約手続きを行えます。
●事業者の不当な勧誘や解約の困難さに対抗する
親に意思能力があった場合でも、契約の過程に問題があった場合は、消費者契約法にもとづいて契約の取消しを主張できます。
たとえば、事業者が「解約金は一切かからない」などと契約上重要な事項について事実と異なる情報を告げた場合には取り消しを主張できます(不実告知、4条1項1号)。
また、「今なら特別価格でお得です」と勧誘しながら、実は定期購入が条件で総額が高額になることや、途中解約すると違約金がかかることを故意または重大な過失によって告げなかった場合も、契約を取り消すことができます(不利益事実の不告知、4条2項)。
また、契約は簡単にできるのに、解約手続きが極端に複雑で困難に設計されている、いわゆる「キャンセル困難なパターン」もあります。
これは直接的に契約の無効や取消しを導くものではありませんが、その手法自体が不法行為にあたる可能性があり、事業者に対して解約に応じさせる根拠となります。
●高齢者に対する契約における「配慮義務」とは
事業者は、消費者契約法上、消費者の年齢、心身の状態、知識及び経験を総合的に考慮した上で、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供する努力義務を負っています(3条1項2号)。
近年では、加齢による認知機能や判断力の変化、デジタルリテラシーの低さといった高齢者の特性を考慮すれば、事業者側の説明や確認のレベルは、一般的な成人相手よりも高く設定されるべきだという議論がなされています。
平易な言葉で説明する、理解の確認を丁寧に行う、といった配慮が強く求められます。 もし、事業者がこのような配慮義務を怠った結果、親が不利益な契約を結んでしまった場合、事業者の責任が問われ、契約の取消しや損害賠償請求が可能となる可能性が高まります。
●具体的な対応策
このような場合にすべきこととしては、以下の点が挙げられます。
契約・課金の状況把握と証拠収集: そもそも親がどのような契約を結んでいるのか把握するのも大変です。 親のクレジットカードや銀行口座の明細、スマートフォンの請求書などを確認し、どのサービスからいつから課金が発生しているのかを調べなければなりません。 契約時の資料やメール、事業者とのやり取りを探すことが必要です。
消費者ホットラインへの相談: サブスクの解約手続きが困難であったり、不当な勧誘が疑われる場合は、全国共通の「消費者ホットライン(188)」に相談するのが一般的です。 消費者センターが法的な助言や、事業者との交渉サポートを行ってくれる場合があります。
内容証明郵便による解約通知: 事業者が解約に応じない、または解約手続きが複雑すぎる場合は、内容証明郵便で、契約の無効(意思能力が欠けると主張する場合)または取消し(契約締結の過程が不当であった場合)を主張する書面を事業者へ送付することが考えられます。 専門的な知識も必要になってくるため、弁護士に相談した方が良いケースもあるでしょう。
成年後見制度の検討: 親の意思能力の低下が深刻で、契約の整理や財産管理が困難な場合は、家庭裁判所への成年後見制度の申し立てを検討します。これにより、選任された後見人が法的に有効に不要な契約を解約できるようになります。 申立ては自分でもできますが、複雑な部分もあるため司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
(弁護士ドットコムニュース編集部・弁護士/小倉匡洋)